私の父は空母の機銃を担当する水兵だった。
第二次大戦末期に、父の乗った空母は南太平洋の ある作戦行動に参加した。(一説によれば、それは おとり作戦だったという)艦隊は多大な被害を受け 空母も撃沈された。救援など来ず、父は 沈没を免れた駆逐艦にかろうじて引き上げられた。 多数の戦友が波間に浮かんでいるものの、駆逐艦に 全員を収容する余裕はなく、「助けてくれ」と叫んで いる仲間を見殺しにして帰って来たのだと、私がまだ 小さいころに話してくれたことを憶えている。
そんな戦いの悲惨さ、兵士を消耗品としか考えて いなかった軍の体質を、「彼らは勇敢に戦った」と いうような言葉であいまいに美化してもらいたくな い。戦争を始めたこと自体が無謀ではなかった のか、ごまかしてもらっては困る。


迷宮に入る