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2020.01.05.



 狩から帰ったサキは、アイに声もかけずに奥に入り、すぐに横になった。今日は獲物がなかったらしい、いつもに増して不機嫌だった。アイは、少し不安げにサキの居る方を向いた。最近やっと子供に優しげな目を向けてくれるようになっていたのに、今夜はあまり子供に近づけないほうが良いかもしれない、とも思った。

 二人の間に初めての子供は、弱くして生まれた。ほかの子供たちは、とっくの昔に親たちと歩き回り、狩の真似をして大人への道を歩み始めているのに、その子はまだ歩くことも出来ないばかりか、殆んどの時間を眠って過ごしていた。アイが子供にかかり切りになって、外に出る時間が少なくなったため、サキの狩にはそれまで以上に負担がかかるようになった。まもなく寒さの時期になり、獲物が採れなくなると思うと、サキの気持ちはあせった。
 なぜ俺たちの子供だけが、こんな不自由な姿なのだろうか、そう思うこともあった。だが、一人でうまく食べることさえ出来ない子供を懸命に世話しているアイの姿をみると、ここでくじけるわけには行かないと、自分に言い聞かせて毎日の狩に出かけるのだった。決して子供が嫌いなわけではない、しかし、他の親子のように、自分の子供とじゃれあう事が出来ないのは寂しかった。その寂しさと、予想されるこれからの困難を思うと、どうしても厳しい顔にならざるを得ないのであった。

 そのようなサキの気持ちを、まだアイは十分に理解していなかった。けれども、サキが必ずしも子供を嫌っているのではないと言う事は分かっていた。いつだったか、アイが子供のそばをちょっと離れた折に、いたずらっ子達が物珍しげに子供の手足をひっぱっていると、サキがすごい剣幕でそのいたずらっ子達を追い払った事を覚えている。

 寒さの時期に備えるため、今のうちに少しでも蓄えておかねばならない。目が覚めて明るくなったら、自分も近場に収穫に出よう、そう思いながら、アイは子供を見た。この子は自分たちが守ってやらねば、一人では生きて行けないのだ。また甲高い声を出して、お乳をねだっている。アイは胸の体毛の間から乳房を引き出して子供の口に含ませた。そして、自分たちと違って尻尾も無く、毛も無くてつるつるの肌をしたその子供を、いとおしく抱きしめた。





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